にっぽん集落町並み縦走紀行 
  
第18日 高山(岐阜県)~松本(長野県)
     丹生川 奈川 稲核 大町


奈川 黒川渡(長野県)
 
 高山寿美吉旅館の朝食は高山名物ホウバ味噌。これを食べるためにこの旅館に泊まったようなもの。ご飯が何杯でもいけるが、ダイエット中なので我慢する。昨夜は朝にかけて雨が降っていたようだ。梅雨前線の真下にいるのだから無理もないが、山間部がどうなっているかが心配である。今日はこれから野麦峠を越えて長野県入りしなければならない。朝食の後、旅館の周りを散歩した。宮川の対岸は丁度朝市をやっている通りで大勢の観光客が出ている。あの大勢の観光客を見ると重伝建地区に立ち寄る気が失せる。それより、宮川の水量が多いのが気にかかる。
 
高山名物 ホウバ味噌

 国道158号線で高山市街を抜け、すぐに国道361号線に入り高根町方面へ走る。分水嶺でもある美女峠を越すと太平洋へ注ぐ長良川の支流飛騨川の谷となる。車窓からちらちら見える飛騨川はまさに濁流で、雪解け水だけではなく昨晩のうちにかなり雨が降ったことを物語っている。途中の道路標識によれば、残念ながら野麦峠は通行止めになってしまっている。でも、峠下の野麦集落までは行けるであろうと読んだ。かなり走って高根町の中心集落まで来た。町を抜けさぁ野麦峠へ向かうぞというところで、小さな土砂崩れがあり道が川のようになっている。まぁ無理していけないこともないが、野麦集落まではまだまだ距離があるし、行っても戻らねばならぬし、ここは勇気ある撤退をすることにした。この旅の目的は野麦峠を越えることではない、北海道宗谷まで行くことだ。
 散々走った国道361号線を高山の郊外まで戻り、国道158号線にスイッチし、安房トンネルを目指す。途中、丹生川大谷で古い民家が残る集落があったので予定外だが取材する。野麦の代わりにいい集落と出合った。この地方の民家は切妻平入り板葺が基本で、豊富な森林資源と高山の匠の技を背景に非常に質の高い木造建築が見られる。大谷には、国重文の旧荒川家住宅ほかこの造りの民家が多く見られた。

 岐阜の集落町並みは、山国らしく木の文化を感じるとともに、割とよく残っている。中山道をはじめとする旧街道の宿場町や在郷町にはいい町並み、質の高い町並みが多い。いくつか代表選手を挙げれば、切妻造り匠の技系の高山古川、本卯建の見られる美濃中津川、旧街道の風情が色濃く残る大井太田大垣、町中に水が流れる美しい山都郡上八幡であろうか。

【回想】郡上八幡(岐阜県)

 岐阜県を後にして安房峠下に造られた長い安房トンネルを通過して長野県に入る。ところで、このサイトが「集落Walker」でもなければ「町並みWalker」でもなく「集落町並みWalker」としているのには訳がある。つまり、私には集落探訪と町並み探訪という二つの原点がある。いずれの話も、この縦走紀行の中で、その原点なる場所を再訪したときに紹介するつもりであるが、集落探訪の方の原点が信州であることから、長野県にはことさら思い入れが強い。
 
 

【回想】高山上三之町の町並み

高根町 大雨の影響で道路が川のように(岐阜県)

丹生川大谷の旧荒川家住宅(岐阜県)


【回想】美濃の本卯建の町並み(岐阜県)

【回想】太田(岐阜県)

 安房トンネルを抜けると梓川の谷。上高地だの白骨温泉だのという観光地を尻目に梓川を奈川渡まで下ったところで、国道158号線から県道26号線へ入る。現在松本市に包含されてしまった旧奈川村は、北アルプス乗鞍岳と鉢盛山の間の深い谷間の村。松本と飛騨を結ぶ野麦街道に沿った集落が点在する。奈川渡ダムによってできた梓湖の南端を過ぎ、奈川へ支流黒川が合流するところに黒川渡・古宿集落がある。ここで見られる大きな民家は、棟の先端にカラスオドシと呼ばれる装飾を付けた切妻屋根と妻面に軸組を表すのが特徴の本棟造りで、松本盆地から伊那にかけて見られる様式だ。古宿から黒川渡に下る途中、美しい蕎麦畑がありしばし立ち止まって見惚れてしまった。

奈川古宿の蕎麦畑

 奈川を遡るとさっき岐阜県側で行けなかった野麦峠に至る。しかし、近づくにつれて雨が強くなったきた。どうやら地形の関係で野麦峠周辺だけが大雨になっているようだ。峠下に川浦という集落があるのだけれどこの大雨の中で歩けないし、岐阜県側の野麦集落とともに今後に残しておこう。野麦峠から離れるとまた雨は止んだ。
 県道を奈川渡ダムまで戻り、国道158号線を松本方面へ進む。島々の手前にある稲核(いなこき)は、野沢菜に似た稲核菜の産地でちょっとだけ有名。建物には海鼠壁の蔵造りが現れてきて、安曇野に下ってきたことを実感する。

稲核の海鼠壁

 旧奈川村での集落探訪がコンパクトにおさまったため時間が余った。このまま松本へ行ってしまっては早すぎるので、明日予定している大町を今日のうちに歩いておこうと思う。途中の安曇野の農道からは、天気が良ければ北アルプスが一望できるはずだが、梅雨時だし前衛の山しか見えず主峰は雲の中だった。
 信濃大町は、少年時代から何度も訪れているけれど、恥ずかしいことに町並みをじっくり歩いたことがない。駅からまっすぐ北に延びる商店街だけしか印象になかったが、直交する通りにも商家が残っていた。そうか、この町も蔵造りの町並みなんだ。面白いことに、主屋のサイドに庭を持ち隣地との間に防火壁がそそり立つ。防火壁は見るからに耐震性に問題がありそうで、主屋と金物でつなげられた家もあった。また、造り酒屋脇の海鼠壁づくしの通りも印象的であった。
 
大町の商家(長野県)

 松本は私が最も好きな町である。町並みとしてみれば別にさほどとびぬけたものではないけれど、北アルプスや美ヶ原などのきれいな山々を背景にした松本城や町並みが好きなのである。実は、仕事をリタイヤしたらこの町に住みたいとも思っている。その街の中、松本城の外堀でもあった女鳥羽川に面したところに蔵造りの建物がある。大正期に建てられた旅館まるもで、今日はここに泊まる。まるもはカフェも営業していて、松本に来れば必ず立ち寄る万訪お気に入りの店であるが、この旅館の方にはいままで宿泊したことがなかった。松本民芸家具が良く合うインテリア。実に心地よい空間である。


松本 旅館まるも(長野県)


奈川 黒川渡の本棟造り(長野県)

奈川 入山集落から梓湖を眺める(長野県)

稲核 海鼠壁の座敷蔵(長野県)

大町の町並み(長野県)

大町 防火壁が主屋とつながっている(長野県)

松本 珈琲まるも(長野県)

松本 旅館まるも(長野県)
第17日   第19日