にっぽん集落町並み縦走紀行 
  
第20日 上諏訪(長野県)~飯田(長野県)
     上諏訪 阿智駒場 下栗

下栗(長野県)
 
 縦走紀行第19日の最終地である上諏訪から戻った二週間後の金曜日夜、中央道で再び上諏訪に向かっている。「にっぽん集落町並み縦走紀行」の旅も後半戦だ。夏場の猛暑日には、改造されたエンジンの発熱に冷却系が追い付かずオーバーヒートの心配を抱える万訪号だけれど今回も登板させた。前回は白山から北アルプスにかけての山越えを何とか走り切った。しかし、梅雨も明けて太平洋高気圧の勢いは増している。無謀かなぁ。

日本のへそ 諏訪湖

 第20日の朝は晴れ。上諏訪温泉の公衆浴場「片倉館」の真ん前にあるホテルに泊まっている。朝食前にこの町を歩こうと思う。上諏訪では、第19日日没前に甲州街道沿いの看板建築群と酒蔵の町並みを取材したので、今日はそれ以外の町が相手だ。片倉館の敷地の中を突っ切って湖畔に出、諏訪湖を臨む。水面には波が全くなく鏡のように静かだ。湖上に足場が組まれているのは花火大会の打ち上げ台の準備であろう。ここから上諏訪駅を中心に時計回りにぐるっと街を一周する。大型の旅館群があってその隣にネオン街がある。この辺りが温泉地の中心か。
 JR中央線の踏切を渡って、ちらりと見える赤い屋根に誘われていってみるとイカシタ下見板張りの洋館を発見。もどってJR中央線に沿った
甲州街道を上諏訪駅に向かって歩いていく。古い木造3階建て旅館があって商店街が始まる。裏に入るとネオン街。第19日で歩いた甲州街道看板建築ストリートの裏町もネオン街。再び諏訪湖側に踏切を渡り、湖に向かってまっすぐ延びる「湖明館通り」という商店街の裏町にもやはりネオン街。というわけで、駅の周囲一周全てネオン街なのである。さすが温泉観光あり精密機械などの産業もある上諏訪、歓楽街が充実しているもんだ。町並みを満喫してホテルに戻ったものの、いわゆる遊郭らしい場所は見つけられなかった。あとで調べてわかったことだが、遊里探訪をされてるサイトYasukoの心象風景」で確認したら、高島城に近い衣之渡という場所が遊郭だったらしい。やっぱり下調べしてのぞまないとダメだ。
 

上諏訪 こんなイカシタ洋館があった

上諏訪 甲州街道の裏町の飲食店街

上諏訪 この先が旧遊郭の衣之渡だった(未踏)
 訪湖畔から有賀峠を越えて辰野に出、伊北ICより中央道に乗る。有賀峠ではきつい登坂が続いたが、ややエンジンの水温が上がった程度だったので安心した。カーナビで飯田の南にある阿智駒場をセットする。飯田を過ぎ、阿智の近くの園原ICで下りるもんだとのんびり走っていたらそのまま恵那山トンネルに突入してしまった。「えー?園原IC無いの?」なんと園原ICは上りだけ。しょうがないので岐阜県中津川ICまで走って料金所を出て直ぐにUターンし戻る。上りの恵那山トンネル内で故障車渋滞。ノロノロと登坂が続いたら水温が95℃まで上がった。いやな予感がする。

 阿智駒場は信州と三河を結ぶ三州街道の宿場町。阿知川左岸の斜面に集落が形成されている。街道沿いの町並みは切妻平入りの町家が並び、脇道を入っていくと木造3階建てが集まる界隈もみられた。繁栄した街道交通時代の面影を良く残している町並みだ。

 阿智駒場からさらに三州街道(国道153号線)を先に進み、浪合、平谷を歩こう。と意気込んで寒原峠に向かって登坂していくとエンジンの油温上昇に引き続いて水温がどんどん上昇、ついに100℃に達してアラーム点灯!路側帯を見つけてクルマを停める。しばらく冷やして再トライするが、直ぐに100℃。ダメだ、これでは峠は越えられない。下手に峠を越えて戻れなくなっては一大事だからここは潔く撤退することにしよう。国道153号線は飯田市まで下り一方だから問題はない。方針変えて明日朝に行く予定でった上村下栗を目指してみるが、上りが5分も続くともうダメ。気温がどんどん上がっているのだろう。もはや万訪号は山に囲まれたここ飯田から動けなくなってしまった。しょうがないので、飯田IC近くに営業所のあるレンタカーを予約した。ところが、たった1kmほどであるが高い場所にある飯田ICにたどり着くことができない。量販店の駐車場にクルマを停めエンジンを切り、十分に冷やしたのち一気に1kmを上りきった。フーっ。

 レンタカーはトヨタアリオン。普通の車だから当然だけど、峠の登坂でエンジンを高回転で回しても一向に水温は上がらない。
伊那山脈の長いトンネルを抜けるとそこは長い間秘境と呼ばれていた遠山郷である。上村上町から炭焼山の尾根を巻くようにどんどん上っていく。この先に山の天辺に広がる集落=天界の村があるのだ。

トンネルを抜けると遠山郷
 

三州街道 旧駒場宿

阿智駒場 木造3階建てが集まる界隈

阿智駒場 綺麗な擬石ファサードの銭湯
 天界の村下栗集落(本村小野大野)は、1985年に出会いその時の感動が私を今まで集落探訪に駆り立てている、いわば集落探訪の原点である(探訪記「天界の村を歩く 南アルプス編」参照)。以来、ここから九州まで続く天界の村々を歩き、そして様々なジャンルの集落町並みを歩き続けてきた。そんな歩みを思い出しながら山道を上っていくとパッと視界が開け、斜面にへばりつく下栗集落が現れた。27年前に魅せられた風景だ。道は集落の丁度真ん中の高さの位置についていて、ここから下が本村地区、上が半場地区という。半場地区をジグザグに上って一番天辺の駐車場にクルマを停める。かつて分校があった場所だ。今日は下栗集落は歩かない。目的は高台から本村・半場地区を見渡すことができるビューポイントへ行き写真を撮ること。最近山道が整備されて行けるようになった。駐車場から歩くこと20分でビューポイントに着いた。
 うーむ、改めてすごい。なんと高い位置にある集落だ。やはりわが国の天界の村の中でもトップクラスである。私は今、縦走紀行の中でこの村を眺めている。この村との出会いからずっと私は歩き続けている。そして、感動の出会いから四半世紀が経ったことを実感している。

 飯田に戻った。まだ明るいが今日はもう歩きたくない。クルマを返却し、すぐそばにあるビジネスホテルへチェックインした。今日の飯田市は長野県の中で最高気温を記録したそうだ。人もクルマも暑さと戦った一日だった。

今日は大変だったな万訪号

下栗 ビューポイントから見た全景

下栗 27年前に根城にしていた井戸端
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