にっぽん集落町並み縦走紀行 
  
第9日 広島(広島県)
    八幡原 戸河内
  向洋  呉愛宕  呉両城
 

呉市愛宕(広島県)の斜面上集落
 
 にっぽん集落町並み縦走紀行第9日、2012年4月14日9:11広島駅前。今日は重要未探訪地がないので計画がアバウトだ。府中町のマツダの企業城下町と軍港呉の愛宕町、広島市内での夜の飲み会だけが予定に入っていて、後はフリーである。これだけでは時間を持て余すので、午前中は遠くに足を延ばすことにした。広島県の北西部、いわゆる芸北地方の島根県境に近い高原集落から始めることとしよう。

 広島道→浜田道→国道191号線と走る。太田川の支流、柴木川→板ヶ谷川→松原川と谷をたどり、数々のスキー場がある蔵座高原→道戦峠→長者原と高原をたどり、県最奥の八幡原高原にまでやって来た。八幡原は、わがバイブルの一つ「日本の集落第3巻」に入母屋の茅葺集落として掲載されていた村である。


八幡原 山間の集落とは思えない平らな農村 山には残雪が

 背景の山々や日陰にはまだ雪が残っている。日本海に近く標高が高いためであろうが、空が広い平野にみえるから東北の農村にでもいるようだ。クルマを降りて歩いてみるが、橙色瓦の民家はあるものの茅葺が見当たらない。橙色瓦の屋根が点在する風景はそれはそれで美しいが、それだけなら珍しくもなくここに来た意味がない。集落は広いのでクルマで流していくと、奥の方で入母屋屋根の民家が出てきた。草屋根は数えるほどしかないけど、入母屋屋根は数棟あり絵にはなる。茅葺あるいは鉄板葺き・瓦葺の入母屋の下には、庇が出ていて橙色瓦が使われている。このハーモニーもこの地の特徴であろう。広島県は志和堀をはじめ茅葺民家が割合残っている地域という印象があったが、ますますその意識が強まった。

 ここから国境を越えて石見国に行ってしまいたいものだが、すぐさま引き返さなければならない。いつかまったく計画なしで、行きたい方へ進む気ままな旅をしたいみたいと思う。国道191号線を走ってここへ来る途中、「←三段峡」なる標識が随所にあった。三段峡は芸北の名所で、珍しく私でも行きたい気持ちがあるがほっておいてもなくなるわけではないのでパスする。山を下り、安芸太田市という町村合併でできた聞きなれない市の中心地市街へ旧道を入ってみる。


第8日の最終地広島駅からスタート

八幡原 
草屋根はわずかしか残っていなかったが入母屋は多い

【回想】 志和堀
 
 おやおやいい町並みではないか。戸河内(とごうち)という町。「いらかぐみ」が取材していたら降りて歩こうかと思い、ネットで調べたらしっかり孫右衛門さんが取材していた。さすがである。
 町は長く1km弱ある。両端部分が直線的、中央部分では緩やかにカーブが繰り返すシークエンスが面白い。その中に「お好み焼き」ののぼりが出ている小さな食堂があった。広島では地元民を相手に小遣い稼ぎでお好み焼きを焼いているおばちゃんの店がある。この店、その予感がする。
 戸を開け入るとがらんとして客はいない。店の奥からイメージ通りのおばやんが出てきた。「お好み焼き食べられますか」「はぁ?」耳が遠く、大声でやっと伝わった。古い鉄板に火が入り、おばやんはゆっくりとお好み焼きを焼き始めた。


戸河内の食堂 メニュー板にはいろいろあるのに作ってもらえるのはお好み焼きだけ
87歳のおばやんの味は絶品

 「この町には観光客は来るのですか」「三段峡観光やスキー客で昔は賑わったけど、今はさびれてしまった。若者がおらん年寄ばかりよ」
かつては林業でも賑わっていたという。この食堂も2年前までは旅館をやっていたそうな。戸河内は廃れて間もない、賑わっていたころの残照が感じられる町並みだった。

 

戸河内 
緑の背景、橙の瓦、白の漆喰、茶の木部が美しい

戸河内 町の中央部はシークエンスが面白い

戸河内 地形に沿って段々の屋根
 朝走った道順の逆をテープを巻き戻すように走る。広島市街の続きにある府中町は、広島のベッドタウンとして戦後急速に発展した街。というか、マツダ本社工場のある企業城下町といったほうがいいだろう。昨今の町村合併で、広島市周囲の町村は広島市に編入されたが、府中町は残った。その理由は紛れもなく企業城下町であるからで、潤沢な法人税に支えられているため合併の必要がないのだ。結果、府中町はすっぽり広島市に囲まれている。
 JR山陽本線向洋駅と本社との間の工場門前町部分を歩く。企業城下町取材では、街と同居する工場、本部事務所、病院、購買部の直営スーパー、従業員社宅、幹部社員社宅、倶楽部施設、そして工場門前の飲食店街、遊里などが対象となるが、ここマツダの場合大きすぎて狙いが定まらない。今回は、工場門前町だけにする。


向洋のとあるスナック マツダ工場の門前町ならではの命名

 駅から本社+マツダ病院までは至近で、門前町はわずかなエリアだった。おきまりの飲食店街であるが、スナック店の中に「ラウンジRSロードスター」という名のマツダ工場の門前町ならではの店があった。町並みは大したことないが、このネタだけでかろうじて☆一つ。

向洋 マツダ本社前のマツダ病院 

向洋 駅前の夜の飲食店街
 広島の集落町並みは、安芸の宮島尾道竹原、酒どころの西条などが観光地としては知られているが、瀬戸内倉橋島の音戸室尾鹿老渡などの島の集落もいい。そして、日本海軍の本拠地であった軍港の街の存在を忘れてはならな。


【回想】宮島

 以前呉を訪れた時、非戦災地区である両城を歩いたが、その丘の上から眺めた隣の愛宕地区も良さそうだった。今回は、その愛宕を歩きに来た。町の入り口にあたる三条通り商店街にクルマを停める。大阪で見かけるような軒段々の古い町家があり、その脇から入っていく。やはりこの愛宕地区も戦災にあっていないようだ。谷から丘から地形なりに迷路のように道が入り組んでいる。そこを片っ端から歩きつぶしていく。呉のように急激な人口増加に平地だけでは対応しきれない場合、宅地は容赦なく背後の斜面に駆け上がる。この現象は、海でも山でも、平地の少ない日本全国で見られるもので、私万訪が集落町並み探訪においてもっとも魅かれる要因の一つだ。斜面集落の規模でいえば長崎が全国一であろうが、斜度はこの呉が一番ではなかろうか。その頂点を極めているのが両城だが、隣の愛宕も負けてはいない。
 そして、両城も再び歩いてみたが、やっぱりこの町の斜度は半端じゃない。階段で足がすくむ。


呉 両城 北側の斜面集落

呉 両城 南側の斜面集落
 

【回想】倉橋島室尾

【回想】呉

呉 愛宕 向こうの丘の稜線までが愛宕

呉 愛宕 急斜面に駆け上がる集落
急斜面集落好きとしては萌えるねぇ
 第9日夜、広島の繁華街八丁堀。いらかぐみのメンバーの一人であり、地元在住の「郷愁小路」孫右衛門さんと飲んだ。いらかぐみオフ会では毎年お会いするが、広島でお会いするのは3年ぶりだ。あれは学会の大会が広島大学で開かれた時で、平日の昼の1時間でチョイランチだった。その時食べた冷麺が忘れられず、今宵も散々飲み食いした後に「冷麺が食べたい!」と飲み屋街にある冷麺屋に入った。広島冷麺は辛いのが特徴で、辛さ度が選べる。私も孫右衛門さんも辛いのは苦手ではないから10段階の5にした。さて、冷麺が運ばれてきた。辛さの方は酔っぱらっているおかげもあって大丈夫なものの、途中でお腹が張ってきたのである。辛い物を食べるとお腹が膨れるのだ。満腹のお腹が辛麺でさらに増幅、、、二人とも苦しくて死にそうになって別れた。
広島名物 冷麺
 
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