小白倉(新潟県)
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伊香保の朝、天候晴れ。朝飯前に温泉街の取材に出かけよう。高原の温泉街は雲海の上にあり、上州の山々が見渡せて気持ちがよい。伊香保温泉は万葉集にも詠われているほど古い歴史をもち、江戸時代も賑わっていたが、上越線の開通によって東京からの便が良くなりさらに繁栄していった。温泉街の中央を貫く300余段の階段に沿っては、昔から続いている土産物屋などが多く、旅館は大型のものが中心で階段街からは外れている。階段の最上部には温泉神社があり、さらに奥に源泉が湧いていて、その湯は階段の下を流れている。この源泉から引いた温の流れには仕掛けが施されていて、階段両側の宿に平等に分配されるようになっている。よくできている。
伊香保温泉(群馬県)
さて、今日は国境を越えて越後へ向かう。中越の十日町松代と小白倉は割と近いが、下越の村上市猿沢は中越から150km以上離れている。しかし、ここを残すと次回が大変だから頑張って行くことにした。東京から150kmの伊香保温泉の帰りにさらに250km以上離れた場所を経由するのも変な話だが、縦走紀行なのでしかたがない。そして、次回の旅では寝台特急あけぼの号に乗って、中継地の村上を夜中にバスし、酒田から始めたいと思う。そのためには、寝台特急あけぼの号の切符が押さえられないと敵わない。伊香保から山を下り、渋川駅に立ち寄って9月のあけぼのの寝台券を購入することにした。しかし、結果はダメだった。B寝台もA寝台も満席。やはり数少ない寝台特急であるだけに人気があるのだろう。1ヶ月前に予約しないと無理のようだ。こうなると今日の旅を村上で終える訳にはいかなくなった。そう、山形県の酒田で終える必要がある。大変だがそうなる。
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伊香保温泉の階段街(群馬県) |
伊香保温泉(群馬県) |
関越トンネルを抜けて越後湯沢ICで高速を降り、石打から国道353号線で山を越える。途中、越後の豪雪地帯の特徴である中門造りの民家集落でいいのがあった。これは歩いておきたいが、リストアップしていないし先を急ぐので目を瞑る。今日は何がなんでも山形県まで走らないとならぬのだ。
松代(まつだい)は、今では十日町市に含まれている。最近、北越急行ほくほく線が開通して便利な場所になったものの、結構な山間農村である。信濃川中流域の塩沢から上越高田に抜ける松之山街道の旧宿場町で、立ちの高い建物が並んでいる。雪国だから切妻妻入が基本、三角の妻面に小屋組みを現す真壁造りが特徴だ。
松代の棚田(新潟県)
松代から旧川西町の小白倉へ移動する。途中は山越え谷越え、棚田が美しい。ここで中門造りのいい集落を見つけた。室島集落。さっき中門造りの良い集落をやり過ごしたことに罪の意識があったのか、よしここは取材しておこう。茅葺の民家が2棟残っていた。
室島(新潟県)
さらに、渋海川に沿って走り、山を越すと眼下に美しい集落が見渡せた。旧川西町の小白倉集落である。かつては仙田郷(せんだごう)と呼ばれ、谷戸奥の急峻な傾斜地下の谷底の狭い範囲に、中門造りの民家が集まっている。屋根はトタンで覆われたものが多いが、原型を残す民家は、棟飾りや狐格子の妻飾りを有している。この一望できる集落景観は、近くの萩ノ島と並んで圧巻である。
小白倉集落(新潟県)
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松代 旧松之山街道の宿場町(新潟県) |
松代の町並み(新潟県) |
室島の町並み(新潟県) |
小白倉の中門造り民家(新潟県) |
小白倉集落(新潟県) |
急げ。小千谷ICから関越道→北陸道→日本海東北道と乗り継ぎ、一気に下越の村上まで移動する。日本海東北道は新潟県山形県の国境付近はまだ完成していない。ちょうどその辺りに旧朝日村猿沢集落がある。新潟県村上と山形県庄内平野を結ぶ出羽街道の旧宿場であった猿沢は、道幅が広く中央に水路を配置し、両側には質の高い景観を創りだしている家並みが続いている。切妻妻入りが多く、軒の深い出桁造りので妻面には小屋組みを装飾的に外観に露出させた町並である。ここで注目すべきは、新築や改修した家でもこの伝統的な様式を踏襲しているところで、結果として高い統一感が生み出されているのだ。
猿沢の町並み(新潟県)
日本海と国道7号線
国道7号線は、猿沢の北で内陸部から日本海岸に出る。そして、県境を越した。今日は酒田までが必須行程だが、時間があれば羽前大山の外港であった加茂を取材しておきたい。そうすれば第26日にゆとりができる。加茂は、城下町あるいは宿場町であった大山の外港として、また酒田港の待機港であった。しかし、その後物流が鉄道に変わると漁港となり繁栄を続けたという。
加茂港にて(山形県)
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旧出羽街道の猿沢宿(新潟県) |
猿沢の町並み(新潟県) |
加茂の町並み(山形県) |
加茂の町並み(山形県) |
日が傾いてきた。酒田までもう少しだ。湯野浜温泉を過ぎ、庄内空港の下をトンネルでくぐり、最上川を渡って酒田市街にはいる。庄内の米倉であった山居倉庫を撮影して縦走紀行は終わった。酒田では、三元豚で有名になった平田牧場本店のレストランでトンカツを食す。数年前、家族3人での旅行で見つけて美味しさにびっくりした思い出の店である。天国のママのことを思い出しちょっと胸がつまった。
にっぽん集落町並み紀行第24~25日の2日間は、娘を引き連れて500km離れた山形県酒田市まで走り切った。高2の娘が旅に付いてきてくれるとは思ってもいなかったが、いつもすれ違いの生活をしているがゆえにいい旅になったと思う。縦走紀行もいよいよ東北地方である。でも、その前に500kmを戻らなければならない。
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酒田山居倉庫で旅を終える(山形県) |
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