にっぽん集落町並み縦走紀行 
  
第35日 札幌(北海道)~稚内(北海道)
     深川  名寄


名寄(北海道)

 第35日朝、せっかく札幌にきているのだからそのことを示しておかなければなるまい。宿から近い旧同庁に行ってみた。朝日を浴びた赤煉瓦はとっても鮮やかで美しい。やっぱりっこの建物は北海道の象徴である。前庭には数本の大きなイチョウがあって、ハラハラと葉を落としている。白い雪の上に黄色の絨毯。こんな風景が見られるのも、秋と冬が一緒にくる北海道ならではだろう。

札幌 旧道庁(北海道)

 今日は一日鉄道の旅だ。9;07発のスーパーカムイ号は白銀の大地を東へと走る。北海道のDatabaseでは、野幌をリストアップしていたので歩く予定にしていたが、さて町並み情報がない。拾い上げるきっかけとなった文献を調べたら、道内の古い建物が集められた「北海道開拓の村」という野外博物館のことだった。ここは以前i行っているので今回は野幌をやめにしDatabaseから野幌を削除してしまおう。その代わりに何処かないだろうか。札幌旭川間は石炭採掘で栄えた町が立て続けに並ぶが、2009年に行ってるので未踏の深川を歩くことにした。
 積雪量はますます増え路面は新雪が積もっている。アイスバーンの札幌市内よりは歩きやすい。目抜き通りを端から端まであるいてみたが、駅前通りと目抜き通りとの交差点に古典様式風の旧銀行建築があった。他には2,3棟の切妻平入出桁造りの町家があるだけで、古い建物はあまりない。ところが、北海道ならではの片流れ屋根の看板建築が多く見られる。看板建築とは、木造勾配屋根でありながら通り側に陸屋根の不燃建築の姿を表現した壁(看板)を持った形態のものをいう。内地の看板建築の多くは看板の後側を妻入り切妻屋根にしているが、この造り方だと北海道の場合は屋根から落ちる雪が家と家の間に溜まってしまう。そこで、看板側を棟として後ろ方向へ片流れにした屋根形態に発展した。こうなると、長手方向で片流れとなるので棟高は高くなり、それを隠す看板はさらに高くなり、表側から見ると3階建てになるのである。正確には3階部分は屋根部屋ということになるが、あまりに高いから3階建て看板建築と呼んでいいだろう。北海道の街には必ず見られるものだが、深川は3階建て看板建築がきれいに軒を連ねている点で注目できるだろう。裏町(夜の飲食店街)は小さくインパクトがないが、雪景色だといい感じに見えてしまう。

深川 夜の飲食店街(北海道)

 予定より時間早い特急列車で旭川へ移動。時間ができたから一寸早いけど昼飯にしよう。旭川といえば旭川ラーメン。昨晩ラーメン食べてるからあまり食い気がないが、他に探すのも面倒なので駅前にあった「山頭火本店」に入った。店員の客のあしらいが慣れているところを見ると、一時はかなり流行ったのであろう。でも今や行列はない。東京にも支店があって普通に食べられる。
 


札幌 旧道庁(北海道)

深川 古典様式風の旧銀行(北海道)

深川 切妻出桁造り町家(北海道)

深川 3階建て看板建築(北海道)

深川 3階建て看板建築(北海道)

 さて、ここから宗谷本線で道北をひたすら北上する。旭川から名寄までは、地図で見ると直ぐ近くのように見えるけれど、これが北海道の落とし穴で76kmもあり、鈍行で1時間半を要する。しかし、この鈍行で行くところが良いではないか。二枚ドアに対面式座席の気動車が、雪の中をノロノロと走る。雪というのは吸音効果があるので、ディーゼルエンジンが唸らない下りでは実に静かである。

旭川駅 宗谷本線にて北上

 名寄の町並み情報は皆無だったので、当てずっぽうな探訪。まぁ、北海道の町はたくさん歩いているから、パターンに嵌れば要所を見つけるのはたやすい。駅を出ると秋前通りがまっすぐ西へ延びている。歩道に屋根がかかったアーケードになっているから商店街だ。北海道の都市というのは明治以降に都市計画されたものだからパターンがあって、鉄道に平行した街道(X軸)とそれに直交する駅前通り(Y軸)によるXY座標系の碁盤目状街区だ。原点の交差点が商業の中心地であるから、まずそこを見つける。そして、X軸に目立った建物は無いか主要部を端から端まで歩く。銀行や大きな商店などはここに面している。次にX軸に平行した1本隣の通りを歩くと、そこには大抵飲食店街がある。そして、スナック街などの遊里の場所は飲食店街とつながっている場合が多いから、とにかく飲食店街とその周囲を歩き回る。目ぼしいものが引っ掛かりだしたら、そこからは立て続けに来るので興奮を抑えて隈なく慎重に。釣りの極意に通じるかもしれない。
 ところで、名寄の街は正にその定石通りに解ける街であった。XY座標系の原点には百貨店のような建物があり、X軸に平行した一本隣りにぎおん通りという夜の飲食店街があった。そして、妙に屋根のおおきな看板建築があるなとサイドに回り込んだら、飲み屋が軒を連ねる長屋だった。そして、反対側の正面に立ったら、出ました!北海道名物スナック集合体建築ではないか。左右対称の折れ屋根の下に屋内の共通の通路があって、そこに面してスナック並ぶがやつ。寒い北海道ではよく見かけるものだ。こうなると、上述したように見所は立て続けに現れて来る。そのスナック集合体建築の近くに、同じような構造の二条市場という集合体建築が見つかった。それらの周辺には古い木造建築も見られ、レンガ倉庫や土蔵なんかも見つかった。思わずほくそ笑む。

 名寄駅からは15;17発の特急サロベツ号に乗る。名寄を出ると20分で美深という駅に停車した。懐かしい響きである。時は30年前の北海道旅行。私はこの美深駅から当時日本一の赤字線だった美幸線(現在は廃線)に乗って終点の仁宇布という町に行き泊まった。「山賊の根城(いえ)」というランプの宿で、当時ユースホステルを卒業した人たちが好む形式のペンションみたいのが流行っていて、この宿もそのひとつだった。泊まっている連中みんなが食堂に集まって夕食をとっていると、そこで一人旅のおっさん(おそらく今の自分くらいの年齢)と意気投合した。そしてその後も一緒に酒を飲んだ。風体はヒゲを生やしていて上条恒彦さんみたいな印象だった。おっさんが「仁宇布の近くにある松山湿原に行ったが素晴らしかったので行ってみなさい」と諭したにもかかわらず、私が「計画が組んであるから行かない」と言ったことに端を発して、話は旅についての討論になった。彼は「キミの旅にはテーマがない。あることを突き詰める様な旅をすべきだ」と説教をした。その時の私はまだ本格的に集落や町並みだけを対象にした旅はしていなかった。「俺は俺なりに考えて旅をしてるんだ。何でロクに知りもしないのに俺のことをそんな風に言うんだ」と、つっかかり言い合ったあと、悔しくて一晩眠れなかった。今思うと若かったんだなぁ。あれからずっとこの苦い思い出を北海道にくるたびに思い出し怒りがこみ上げていたが、今あのおっさんと同じ年齢になって、あいつの言ったことも一理あるなぁと思う。
 

名寄 名寄駅(北海道)

名寄 スナック集合体建築(北海道)

名寄 スナック集合体建築(北海道)

名寄 二条市場(北海道)

名寄(北海道)
稚内駅(北海道)

 名寄から何と三時間、真っ暗な稚内駅にやっと到着した。ホームに下り、あの寂しい最果ての駅舎をイメージしていたら、真っ白な新しい駅舎になっている。綺麗な洒落た駅も良いが、前の暗くて薄汚れていた駅の方が最果て感が強いと思う。真っ白な雪を踏みしめながらホテルへと向かう。特急サロベツの車内がひどく暑かったせいか、最終地に到着した安堵感からか、ホテルの部屋にはいるとどっと疲れが出た。しばらく布団に横たわっていたが、お腹がグーっと鳴ったので夕食に出かけよう。
 ホテルは稚内の飲食店街の真っ只中、徒歩2、3分圏内に飲食店からスナック街までがおさまっている。その中から「竹ちゃん」という郷土料理居酒屋に入る。店内には長いカウンターがあり、一人客でも落ち着ける店だ。郷土料理のタコしゃぶ定食を頼んだが、最後の夜だし奮発して焼きタラバガニも追加しよう。うーむ、これが熱燗によく合う!こんな至福の時もたまにはいい。

建替える前の稚内駅(北海道)

稚内 焼タラバ(北海道)
第34日   最終日(第36日)