富士川紀行
 

 秋も深まる休日。あまりの天気のよさに家でじっとしていられず出かけることになった。日も短いし朝ゆっくりだったのであまり遠くへは行けない。高速道路利用で2時間以内で行ける場所の中から山梨県南部の富士川流域が選ばれた。富士インターで降り西富士道路を使って最初の目的地である下部温泉へ急ぐ。途中、まだ歩いたことのない静岡県富士宮市を通り心が魅かれるが今回は降りないことにした。静岡県では東海道の宿場町など行かなければならない場所があるのでそのときに歩けばよい。テーマごとに巡らないとこの印象記にアップしにくいのだ。
湯之奥(山梨県下部町)
 今年は台風が観測史上最も多く上陸した年である。富士川は随所で護岸や土砂崩れ箇所の復旧工事がなされていた。富士川に沿った県道から支流の下部川を遡る。下部温泉をいったん通り過ぎて、最奥の湯之奥集落へ向う。
 広い場所に車を停めて集落に入っていく。湯之奥集落の通りはしっかりとした石畳となっている。脇の側溝を水が勢いよく流れているのが山里らしくて良い。坂道を登っていくと保存修復された草葺民家が現れた。色付き始めた山をバックにした小さな山村は、かつて金山で栄えたという由緒ある集落であった。
下部温泉(山梨県下部町)
 下部温泉は身延山とともにこの地域では有名な観光スポットである。さぞ大きな温泉町であろうと今回始めて訪れたがそうでもない。というより、大きなホテルは源泉よりずっと下流の場所にあり、元来の温泉街は割りとひっそりとしている。木造三階建て風の旅館が建ち並んではいるが、モルタル吹き付けなどが多く残念だ。一目でで木造とわかるような建物が多ければかなり温泉場としてはいい風情を醸していたであろう。
 それでも湾曲して流れている下部川にはみ出して建っている町は面白い。変に昨今の温泉ブームに乗ってないところも逆に好感が持てる。
小室(山梨県増穂町)
 富士川をさらに北上する。富士川は釜無川と笛吹川という甲府盆地の2大河川が合流してこの名に変えるのだが、その合流点近くから今度は南アルプス方向に山を上って行く。
 小室は甲府盆地南端を見下ろす山裾にある集落で、古刹妙法寺の門前集落。「日本の町並みV」に紹介され知った。訪れてみるとまず妙法寺の巨大な山門に圧倒された。そして、その山門前に軒を連ねる民家の家並みが面白さに魅かれた。この集落はかつて妙法寺の参詣客で大いに賑わったという。今の静けさからは想像がつかない。町並みの背景として遠くに富士山の頂を望む。遠くから見る富士山というのはとても高く感じる。
鰍沢(山梨県鰍沢町)
 小室を後にし山を降りてくると鰍沢の町である。鰍沢は「カジカザワ」と読むが、ちょっとインパクトが強い響きである。江戸落語の「鰍沢」の舞台になった地域で、先の妙法寺もこの落語の中に登場してくる。
 中央本線が開通するまでは、鰍沢は甲府盆地の物流の玄関口であった。そんな理由でDataBaseに挙げられていたので歩かないわけには行かない。何度も通ってはいたが古い町並みがあった記憶がなかったが、歩いてみてもあまり残ってはいなかった。戦前に何度か大火に見舞われていたためか店蔵が多い。
市川大門(山梨県市川大門町)
 もう日が暮れてきた。秋から冬にかけての旅は日が短くてせっかく出かけてももったいない。鰍沢の近くにある市川大門は、日没前にかろうじて訪ねることができた。しかし、そんなさびしい時間に訪れたためか、町並みは非常にさびしい印象で古い町家もあまり残っていない。町並みとして紹介するかどうか迷ったが、せっかく訪れたし背景に美しい山並みが望めるし伝統産業が息づいている町だし・・・と、色々理由をつけて紹介することにした。
 富士川流域の集落と町並み。なんといっても南アルプスや富士山といったすばらしい山を背景にできることが強みである。