出津 石積壁が見られる隠れキリシタンゆかりの集落

長崎県
長崎市
西出津町
新牧野町
黒崎




交通

JR長崎駅よりバス利用





出津





1982.03
2005.07.26
旧外海町は西彼杵半島西岸の半農半漁の町である。南部にある出津、黒崎地区は隠れキリシタンの地として知られる。沿岸は西彼杵半島県立自然公園に指定されている。1571年、外海に南蛮文化がもたらされ、特異な文化が形成されてきた。江戸時代、迫害されたキリシタンたちは、厳しい弾圧を逃れてこの地に隠れ住んだ。その歴史から遠藤周作の小説『沈黙』の舞台にもなった。
明治12年、外海地方の主任司祭として赴任してきたフランス人宣教師マルコ・マリ・ド・ロ神父は、貧しい人々や孤児の救済に様々な活動を行い、この地に生涯をささげた。出津地区のシンボルである出津教会は、ド・ロ神父の設計施工で建てられた教会。その近くには神父が私財を投じて建設した授産施設、工場(ド・ロ神父記念館)が残っている。その特徴はド・ロ壁と呼ばれる石積壁で、地元で採れる結晶片岩をアマカワで固めたものである。また、出津から山へ入るとこの石積壁が取り入れられた民家集落が見られる。この特異な形態は、ド・ロ神父が出身地であるフランス・カルバドス地方の様式を持ち込んだとも、台風常襲地域であることから台風対策として造られたものとも、隠れキリシタンが多かった地として生み出された特異な社会構造からともいわれている。
出津のやや北の大野地区にある大野天主堂は全てがこのド・ロ壁で出来ている見事なもの。また、南にある黒崎にも旧隠れキリシタンの村に建てられた天主堂があるが、こちらは美しい煉瓦造である。
かつての出津集落を描いた絵(上)。右上が出津教会(尖塔は一つしかない?)。

現在の出津集落(左)
出津教会(1982年撮影)
手前の付属家は現在は無い。
出津教会(2005年撮影)
ド・ロ神父の設計施工で建てられた教会。台風の被害を避けるため、低く堅固な作りとなっている。

旧出津救助院(明治16年)
木造ならび石造2階建て。ド・ロ神父が私財を投じて建設し、貧しい人々のためにパンやマカロニ、そうめん作りの技術も教えた授産施設跡である。(国重文)
旧出津救助院のド・ロ壁は、当地方の結晶片岩をアマカワ(砂、漆喰、赤土)で接合して積み上げたもの。アマカワに砂を混ぜたところが特徴だという。

ド・ロ神父記念館(旧鰯網工場)(明治18年)
木骨煉瓦造の平屋建てで、キングポストトラスの小屋組や防風対策の石積壁が特徴。
バスチャン屋敷(左下)
迫害時代に日本人伝道士バスチャンが隠れ済んだといわれる住居跡。建物は近年、有志で建てられたもの。
新牧野地区の石積壁を持つ民家集落

家屋の全面に用いられているわけではなさそうで、付属屋や土間側の壁に用いられているようだ。

新牧野地区の石積壁を持つ民家集落
屋敷地を平に整地するために高く積み上げられた石垣。結晶片岩という平板を積み上げるので、一般の石垣とは趣が異なる。家屋の壁と調和して特異な集落景観を形成している。(左上、下)


大野地区の大野教会
全てをド・ロ壁で造られた教会。屋根が丈夫そうな出桁造りになっている。入り口がピロティ状の半屋外空間になっているのは出津の旧鰯網工場と同じ造り。(下)
参考資料 リンク
長崎市
外海町商工会

参考文献
『日本の集落 第3巻』 高須賀晋・畑亮夫 建築資料研究社