駿河遠州
 

今年の年末年始(2004〜2005)は、元旦が土曜日なので12月29日仕事納め1月4日仕事初めとなり最低の正月休みだった。この状況、悲しいことに1日ずれるだけの来年も同様である。一方、娘の小学校の方は逆の現象で最大日数の冬休み期間になっている。なんと1月11日が始業式というから驚きだ。正月休みは実家まわりで終わってしまうし娘は暇をもてあましどこかに連れて行けとわめいている。「それじゃ行くか」ということで町並み歩きを条件に出かけることにした。娘の冬休み最終日、やっぱりあったかい静岡方面がいい。静岡は関東から近いため随分歩いているほうだが、今回はまだ行っていない旧東海道の由比周辺と遠州地方を歩くことにした。この旅が終われば静岡県内で歩いた箇所数がリストアップしている57ヵ所の半数に到達する。
蒲原(静岡県蒲原町)
東京をゆっくりした時間に出発する。東名高速の朝の渋滞は終わっていていたってスムーズ。天気は上々、富士山が良く見える。富士インターで一般道に下りると富士・吉原の工場地帯で、あちこちの煙突から煙がもうもうと立ち昇っている。富士川を渡ると平地がぎゅっと狭められて東名高速、国道1号線バイパス、旧東海道、JR東海道線が束ねられた状態になる。そこに旧東海道の蒲原宿がある。
こういう地形なので蒲原は東名高速や国道1号線バイパスが出来るまで大動脈である旧国道1号線が町の中を貫いており過酷な環境だったという。それでも旧蒲原宿は旧国道1号線から一本外れたところにあって現在の町の中心より離東京寄りに離れているため徒歩時代の街並みが残されている。東海道らしい出桁造りや静岡らしい海鼠壁などが特徴で中には洋館も見られる。

由比(静岡県由比町)
蒲原から西へ行くと狭い平地がさらに狭まる。東名高速の上り車線を走ったことがある人は駿河湾越しに富士山が見えるあの有名な風景を知っているだろう。この風景、安藤広重も描いている。
その風景の中で富士山を背にしているのが由比宿。海岸段丘の上に旧宿場町があった。あったと表現しているのはあまり残っていないからで、旧宿場町の西側にある今宿の方が町並みとしては面白い。旧東海道では出桁造りが特徴であるが、中にはそれがエスカレートした2段出桁造りというのがある。今宿にある2段出桁造りの商家は、中でもかなり迫力のある一品である。

花沢(静岡県焼津市)
日の短い冬の日。一分一秒が大切である。このあたりは静岡市周辺で道路が渋滞することはわかっていたので、少々もったいないが東名高速を使って焼津インターへ。5KMほど東へ戻って山の中へ入っていく。南斜面に茶畑が広がっているが、この奥にどんな集落があるのだろうか期待が膨らむ。やがて黒板壁の集落が現れた。花沢は古道「やきつべの道」に沿った集落である。もちろん「やきつべの道」が使われていた頃に栄えた町並みがあるわけではないが、川縁の石垣や屋敷地を平らにするために積み上げられた石垣に、この集落が古い歴史をもっていることを感じる。小規模な集落ではあるが、自然に抱かれた佇まいと統一美において素晴らしい景観である。


二川(愛知県豊橋市)
花沢で日が暮れてきたので初日の町歩きは終了。浜名湖畔のホテルに泊まった。翌朝、眠る家族をホテルに置いてお得意の朝飯前散策に出かける。浜名湖畔から約30分、愛知県二川宿を訪れた。
はじめに宿場町を端から端まで車で流しておいて見所を押さえる。さすがかつての大動脈だった東海道の宿場町、とても長い。西の端に車を停めて早足で歩き始める。東海道もここまで西に来ると相模駿河で見られた派手な出桁造りは影を潜め格子の美しい切妻平入の町家となる。宿場町のちょうど中間にある本陣は修復中で見られず残念であったが、東の端付近に良い町並みが見られた。大きな町家は奥行が深く、路地に長い板壁が続いていた。


新居(静岡県新居町)
暖かい静岡のはずが日曜日の朝は結構冷え込んでいる。午前中は娘とテニスをする約束であったが風が強く30分ほどで耐えられず切り上げてしまった。他にやることはサイクリングくらいしかないがサイクリングも寒い。どうにも他に遊べるメニューが見当たらない。しかし町歩きは天候に関係なくやる気があれば出来る。などと家族を説き伏せて新居宿に向う。もちろん歩くのは私一人で、家族はエルグランドの中である。
新居宿は関所があった場所。しかしそこからのイメージに反して旧東海道にはさほど古い町並みは見られない。どちらかというと裏道に古い町家が残っていた。
横須賀(静岡県大須賀町)
新居関を後にし遠州灘に近い国道1号線バイパスから国道150号線と東へ進む。道路は一本なので交通量が多くノロノロである。日が短い冬の日、気持ちが焦る。
大須賀町横須賀の町は城下町だが街道沿いの直線的な町並みが形成されている。町家は切妻平入の出桁造りがベースである。こういう一直線な町並みというのは土地の高低や通りの曲がりなどの地形による変化が無いためどうしても単調に感じてしまう。したがって目を引く建物の存在が重要になってくる。横須賀の町並みでは、大きな旅館である八百甚、〒マークが瓦に刻み込まれた和風郵便局、和洋折衷の医院建築などがそれにあたる。


丸子(静岡県静岡市)
横須賀を歩き終わって午後4時。もう暗くなってきた。静岡に来て必ず寄りたい店がある。それは旧東海道鞠子宿にあるとろろ汁の丁子屋。あのクリーミーなとろろ汁を食べずして帰ることは出来ない。
旧鞠子宿には古い町並みは残っていないが証拠写真が無いのでとりあえず歩いておいた。丁子屋は大広間でみんながとろろ汁をすすっている。大広間の四方の壁には安藤広重の描いた東海道53次の絵がかかっている。飛び飛びではあるが旧東海道の宿場も結構歩いているつもりで数えてみたらまだ17宿。いつか中山道のように片っ端から歩く日が来るのだろうか。